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FLOWERS 秋篇 感想/レビュー

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毎度恒例のミステリィに関しては、ここから
ミスリードで若干入り組んだシナリオを解きほぐすことにもなった。
シナリオの理解が感情移入を促す為、これには一読の価値があるだろう。


◆序文:
(注意点、心得)


これまでの欠点は目に見えて減り、美点は更に輝きを増している。

推理パートにおける質問の総数は、春篇から順に減っている。 (十三 → 十二 → 十)
確信を持って解答する事が不可能な問いは、シリーズのどれにもあったが、
今作ではそれが最も少ない。 (おそらくは六つ)

夏篇からはシナリオに別段の不備が見当たらなかった為、
本作に対する期待は、初めて春篇に触れた時と同じく高まっていた。

故に、急がず丁寧に物語を追う事にした。
なぜなら、十分に時間を掛けて物語を味わう事で、感情移入が促されるからである。

そして、本作は筆者の予想を遥かに上回るものであった。

本作はシリーズにおいて、最も優れているといって差し支えない。
また、春篇chapter5での雪辱も果たした。
この秋篇によって、シリーズ全体の価値は著しく高まったと考える。

これまでに本シリーズから心が離れてしまった方が僅かにいるかも知れないが、
この秋篇を機に、もう一度作品と向き合う事を勧めたい。

以下、「脚本」、「演技」、「作画」、「他」、「後記」にネタバレあり。



◇:攻略


プレイ時間目安:約二十五時間


前作同様、以下のサイトが見易くてお薦め。

http://seiya-saiga.com/game/innocentgrey/flowers3.html


トゥルーエンドを迎えた後に、分岐点を参考にさせて頂きました。この場にてお礼申し上げます。



簡易表:


今作では、メインルート以外でも構成が多少練り直されていた。
条件は詳しくは判らないが、二週目以降に林檎のモノローグがいくつか追加される。

(その条件はおそらく、トゥルーエンドを見る、百合ゲージ量が完全ではない、
プロローグを見ない。これらの内の一つ、あるいは複数)

脚本 (what to tell 何を描くか)
ネリネ
林檎
双子
物語A
B-
C-
構成AB-C

(※一.物語とは、世界の変革、個人の心境変化、それらの変化量。描出すべき事象の過不足の無さ)
(※二.構成とは、物語を描く為の適切な場面の配置、伏線、起伏、溜め、ミスリード、小道具の使用等)


演出 (how to show どう描くか)
ネリネ林檎双子
脚本的A+B-C
作画的A+B+B
音響的ABB
スクリプトA-BB

(※一.脚本的演出とは、見せ場を指す。出会い、別れ、愛情、信頼、危機、対決、和解、真実の劇的発露)
(※二.作画的演出とは、印象的な絵。構図、背景、表情、所作、衣装、色、光、象徴、対比、レンズ効果等)
(※三.音響的演出とは、音楽と効果音の使い方。挿入歌は含むが、演技とシステムボイスは含めない)
(※四.スクリプトとは、画面効果を指す。アイキャッチ、ワイプ、暗転、立ち位置や表情の変化等も含む)




◆脚本:
(シナリオ、構成、テキスト、表現)


まず、
春篇のレビューで行った、苺への手厳しい評をここで撤回する。

今作における善意の狂言や境遇が明らかとなった事によって、苺の名誉は回復された。
個人的にも、やはり彼女は妹想いの良い子だと思う。

今作で苺の取った行動の為に、春篇の評価は本来の位置まで戻る事だろう。
(下部の「他」項にて、ミステリィと併せて詳細を記述)


次に、構成について。

ファーストシーンでは、後に明らかとなる印象的な場面を先に見せておき、
読み手に疑問や関心を抱かせ、知りたいという欲求を掻き立てさせている。

構成としては、継ぎ足しに見えなくもない箇所も見られるが、
カメラや鍵開けといった小道具、動物の世話、料理やバレエ等は春篇・夏篇から活かされていた。

また、苺と譲葉が結ばれない理由については、林檎が譲葉へ抱く想いとは異なり、
譲葉の格好良さに惹かれている事が対比となっている。(林檎は譲葉の女の子らしさに気付いていた)
春篇で苺が、初恋の相手は父親
だと言うくだりを、実に上手く利用している。

双子ルートでは、林檎が独白で以下を述べた。
これによって、林檎の譲葉への想いは、苺と対等でいる為のものだったと軌道修正される。

わたしも好きに為らなければならない。
それなら
比べられる事はない。

先に挙げた“継ぎ足し”とは、主にネリネの心に抱えていたもの、幼少期の二人の関係等である。
この辺りは前作までに匂わせた箇所は皆無だった。

主人公とヒロインの関係は概ね出来上がった状態から始まる為、
読み手が共有出来ない過去の描写が力を持つ事になる。

更に、シナリオの都合上から明かす訳にはいかないが、
読み手に対し情報が秘匿されているのも、自己投影という観点からはマイナスだ。

(この点は、拙稿「
百合作品媒体小論」を参照)

具体的に挙げれば、“真実の女神”とは何か、匂坂マユリはどうなったのか。
これらが本作の主人公たる譲葉は知っているにも関わらず、読み手には明かされない。
また、ミステリィにおいても推理が終わった後で、主人公の知っていた情報について言及される。

本作のミステリィに関しては、「他」項を参照のこと。

本シリーズのミステリィが稚拙である事の証明は、
拙稿「FLOWERS 拙劣なミステリィについて」で行った。
ここでは、ミステリィの原則について俯瞰し、
主人公と読み手における、情報の共有についても語ったのであった。

しかしながら、時間を掛けて諸々の変化を丁寧に描いていた事と、
独白における優れたテキストが、主人公との一体感をそれなりに得させてくれた。

主人公とヒロインの二人の関係について、十全に描かれればそれで充分であり、
ミステリィにおける不備、上述したシナリオ上の制約に関しては甘受して然るべきだろう。

ヒロイン側の心境変化に関しては、春篇・夏篇に比して
少々控え目になっているが、それは独白でいくらか補われていた。


二人の共通点、『オズの魔法使い』における銀の靴が好きだというくだりがあった。
また紅葉狩りの時には、“靴のかかとを三回鳴らす”のを途中まで見せておき、聖堂での告白時も含め、
ラストシーンで実を結ぶまでに段階を踏んでいたのが良かった。

続けて、前振りについて。

(前振りと伏線の違いは、疑問や違和感を読み手に抱かさせるかどうかにある。
前者は小さな伏線、後者は大きな伏線と言い換えても良いだろう)

シェイプシフターの真相を探る為、譲葉はニカイアの会の年鑑をネリーに見せた。
これは基本的に、会長しか見る事が許されていない物である。

後に見るネリーの日記への前振りになっている上、
自分しか見てはいけない物を見せておくことで、
日記を勝手に見た事への罪悪感が減じるようになっている。

(日記を見た理由は至極真っ当なものであり、相手の為になるのなら、
相手に嫌われたり、他者に軽蔑される事を厭わない者こそ真実の友であり、美徳の徴である)


加えて、春篇で譲葉が殴打された事件において、
蘇芳達が譲葉の部屋を探った事に対し、譲葉はこれを許している。(ネリーの日記を探す為に集まった際、部屋の前にて)
これも上に同じく、考えと行動が一致している。

シェイプシフター事件前半部・紅葉狩りでの捻挫について、ルーガルーでのそれへの前振りになっていた。

また、何にでも変化出来るというオズについての下りは、シェイプシフターが前振りとなっていると言える。
ハロウィンにおける双子が、同じ衣装を着ていた。この時、譲葉は二人から異なる印象を受けた事を語り、
“見る者によって様々に変わる姿。”というオズに通ずるものがある。(比例関係は異なるが)

件のドレスを作り変えようとする寮長のくだりも、ウェンディゴでのズダ袋への前振りとなっている。
農場において、ダリアと話した恩寵の下りも、同じくウェンディゴにおける餌やりへの前振りであり、
シーツのリサイクルという点でもズダ袋に掛かっている。こうして有機的に各要素が結び付いているのは優れている。

ウェンディゴ事件にて、方喰寮長が動物に餌と薬を決まった時間に届けていたのは、
熱帯魚の世話を決まった時間に行う事にも繋がっていると言えよう。

好きな言葉について、譲葉と蘇芳が話した事があった。
ここで語られた、“愛していない人間と旅に出てはならない”という言葉がある。
これは、本作の結末への極めて重要な前振り
となっている。

テキストについて。

料理やバレエに関して、およそ一般的な知識から乖離しており、
度々何を言っているのか判らないことがあった。

しかし料理に関しては、それがどのようなものであるかが、それとなく自然な形で説明されている事が多かった。
バレエに関しては割と素通りな感じではあったが、夏篇とは異なり、
コンセプトではない為、解説する必要は無いと考えられる。

これらは、主人公である譲葉の人となりを演出している。
(彼女は根っこの部分では女の子だということ)

料理部に所属している事と、それが譲葉の本質から来ている事、
これによって、食事の描写に対するこだわりも活きてくる。
この点では、夏篇や他メーカーの某伝奇シリーズにおける二作目よりも優れていると言える。

以下の言葉から、今の譲葉は、<本来の女の子な自分>だけでなく、
<父親に理想を見出しそれを体現する今の自分>との調和が取れているように思える。
前者の部分は基本的に、人前では見せようとはしていないが。

女性らしさと中性的なセンスが混じり合う秋服が佳い。

“シニカルな笑み”を作ったという表現が多用されていたのが印象的だった。
同じ表現を多用するのは、記号的で短編作向きの手法だが、(短時間で印象づける為)
今回は人物の核心に迫っている故、優れたものであると言える。
こうした時の譲葉は、基本的に父親の仮面を被っているのが理解されるだろう。

7/24 追記:
もう一度最初からプレイし直したが、そうでない時でも用いられている事が多かった。
完全に素になっていたのは、一人称が“私”になる時と、
子供の頃を思い出してネリーをネリネちゃんと呼んだ時くらいだろうか。


本シリーズ特有の引用について。

各chapterの合間に挿入される文学等の引用を用いて、人物の気持ちを代弁している。
今作では、そういった精神的なモチーフを、『オズの魔法使い』一作品に限定した事で、
継ぎ接ぎ感は無くなり、それに伴って陳腐さも消えた。

また、この
『オズの魔法使い』は、主人公とヒロインの間における思い出の作品であり、
引用がごく自然に感じられる。こうした点でも秋篇は傑出している。

表現について。

どうにも今朝はペシミストな感覚を引き摺っているなと鏡へと笑いかけた。

ペシミスト → ペシミスティック (名詞 → 形容詞)

誤字は一回か二回だけで、極めて少ない。おそらくは、入力したスクリプターのミスだろう。

これ以上“当てられ”ては適わないと、友人たちの部屋を後にしたのである。

適わない → 敵わない

設定について。

ネリーのバースデーケーキにおいて、蝋燭の本数が少ない。
春篇におけるマユリの発言から、一年生が十四才と十五才で二年生が十五と十六。
誕生日を迎えたネリーは十六。絵では十四本だけになっている。



◇演技:


見せ場となるシーンにおける、繊細な心の揺れ動きが良く演出されていた。

周囲に誰もいないと思っている状況で、
譲葉がくしゃみをした時があった。
それがあまりに小さく可憐であった為、思わず胸に迫るものがあった。愛らしいにも程がある。

譲葉が林檎のどこが好きかをえりかに訊かれた際、少し考える所があった。
この時の林檎の不安そうで少し傷付いたような声音は、控え目で当を得ており、その心の痛みが伝わってきた。
無論、直ぐに譲葉の言葉で林檎は笑顔に変わり、筆者も安心させられた。

劇場で苺が真情を吐露した際や、譲葉がネリーと対話した場面等、
重要なシーンにおける演技は特に際立っていた。

苺の入れ替わりの際の演技は、
春篇のそれと同じく微妙なさじ加減の演じ分けが見られた。



◆演出:
(スクリプト、画面作り)


絵に合わせて、各人物の音声を左右のチャンネルに分ける事があり、視点を意識していた。

白目を剥きながらシェイクする(画面を振る)のは、エクソシストを思わせた。

図書室で立花の口パクが、一文字ずつ枚数が割かれていたのは良かった。
程良いアクセントになっていたと言える。

瞳を揺らす事や瞬きも夏篇同様、程々に用いられていた。

これらが優れていると言えるのは、過剰になるほどに多用しなかったという点にある。
何故なら、ADVゲームにおいては、静と動の対比が良くない方に働く事があるからである。

つまり、文字を読む為の視線が、上に向かう事になって集中出来なくなるという事。
(本作には無関係だが、口パクや瞬きをし続けるのは、その最たるものである)

アイキャッチについてだが、悲劇的なシーンを挟む際は、
曲調も合わせて悲しげなものにした方が、気持ちの切り替えを促してくれるだろう。



◇作画:
(キャラクターデザイン、原画、塗り)


基本的には春篇のレビューで述べた通り。

今作では、譲葉が立ち絵と比べて、少し幼く見えるカットが多かったのが特徴的。

立ち絵や表情が新規に追加されていた。
それとニカイアの会の会員を描いたのは、今作が初めてだろうか。

今作では、瞳に星型のアイキャッチを入れていた箇所も見られた。
(秋の風物詩を訊かれ読書と答えた譲葉がいて、それを見た蘇芳の瞳にて)

最も魅力を感じたのは二重唱のカット。
髪を下ろした譲葉はネリーと同じく、気品と柔和さを兼ね備えた女神のように見える。

譲葉が意を決してネリーに告白し、キスを迫り拒絶された時の表情は印象的だった。(ネリーが拒絶していたのは、主に自分自身だが)
恋心から生じた傷心だという事が、絵だけで解る程に際立っていた。

えりかが譲葉に編み物を教えている際、千鳥のやきもきしている表情と
所在なさげに自分の指先を絡めているのも良かった。

立花のアレだが、他作品から察するに絵描きの趣味なのだろうか。
美しさは、生を肯定するものであるから、そこに対比させるように痛みや病や死を同居させて、
両者を引き立たせている……のかも知れない。

これは蘇芳視点のエピローグでは、特にギャグとして機能していた。



◆音楽:


スローテンポな曲によって、秋のゆったりとした感覚が演出されていたと思う。
リュートの乾いた音が秋には良く合う。



◇効果音:


画面外でしていた双子の会話等が、小音量でBGM的に流れていた箇所もあった。

これまでにレビューした通り、充分に効果音が付せられていた。



◆背景:


秋の象徴とされている鱗雲など、季節感が十分に描かれていた。

ラストカットの演出的な点は、「後記」にて。



◇システム:


バックログに移行すると音声が終了する仕様は、特に改善されてはいない。

蘇芳の声量は、調整ミスではなく、彼女の個性を演出しているのだと考えられる。
故に聞き取り難い時は、プレイヤーは個別に音量を調整するよりは、全体の音量を上げて
比例関係を崩さないようにする方が、作品を尊重することになるだろう。

テキストボックスにも昼夜(明暗)がある。これは今作からだろうか。時間があれば確認したい。






推理パートについて。

今作は不可解な点が少なかった為、全体を俯瞰するだけではなく、
可能な限り詳細に検討する事にした。


それでは、始めよう。

まずchapter2では、三角関係の者が蘇芳達のクラスにいるという話は聞いていたが、
それが石蕗嬢であるとは示唆されない為、解答不能だった。

しかし水槽を早い段階で見せておいたのは効果的。奇術師の様な狡猾さと言える。
そういう事か!と、思わず膝を叩いてしまった。


chapter4における、泥や土とコーヒーの染みは、区別は付き難いだろうけれど、
粘度の違いから跡の形状が異なり、識別し得ると考えられる。


方喰寮長の裁縫好きな所は、
前振りとして機能していた。
また、譲葉の気質と突き合わさせるという、ごく自然な形で用いられていた。
更に、ネリーへのプレゼントの為に、編み物を始めた事も同様。
寮長が、件のドレスを使って別の物に作り変えようとしていたのも、ズダ袋の前振りとなっていた。


ちなみに、以下で述べた内容は、推理の際には直接言及されない為、
場面を思い出すのに苦労するかも知れない。主人公が読み手に対し、
どれだけ明確に根拠を示すかによって、難易度が左右される事になる。

以前に八重垣君たちの部屋で起こったある出来事と、
私が臥せっていた間に学院内で起きたあることが関係している。

上記の引用において、前者が指しているのは、
chapter3で千鳥がえりかに、自分の髪も梳いてくれるようにお願いした際にコーヒーを溢した事。

譲葉 「……コーヒーで染めてしまったシーツは方喰寮長の元へ持っていくこと。
    そうすれば、後日、新しいシーツと交換してくれるよ」

“私が臥せっていた間に学院内で起きたあること”とは、chapter4において
捻挫し風邪を引いていた譲葉に対し、ネリーが述べたニカイアの会の報告を指す。

ネリネ 「1年生の子が農場に来ていたキツネ? タヌキかしら、
     それを餌付けしてたって報告があったくらいかしら」


特に問題なのは
、chapter5における狂言について。

まず、ネリーが聖堂にいなかったという証明は、
熱帯魚の世話と寮長の見回り、それに相部屋の萩原さんの証言を合わせ、
十分に蓋然的であり、結果としては問題無い。(蓋然性 ⇒ ある程度確実である様)


問題であるのは、ここからだ。

ネリーの日記を読んだ時には、部屋を出た証拠として斥けられた姿見が、
イズニクに集まる前の推理においては、<林檎が襲われた時間にネリーが寄宿舎に居た>
という根拠として用いられていた。

この時、姿見が水槽である事は示唆されていない為、矛盾している。
それが語られるのは推理パートの後、ニカイアの会の会合中であった。
また、水槽を姿見とする事がおよそ不可能であるのは、本項の中部にて後述する。

えりか 「犯行は確かに記されてなかったが、反面深夜外出したことは
     文言から確かとなった。どちらかというとマイナスだよ」

問, 襲われた時間、寄宿舎に居たという根拠は?

答, 日記帳に姿見を見ていたと書かれていた。


また、以下の情報が与えられたのは
、chapter2においてであり、
これをchapter5での推理に用いたのは、時間が空き過ぎているように個人的には思えた。

・熱帯魚に睡眠が必要な事
・その生活サイクルに合わせ、決まった時間に電灯を消す事
・熱帯魚の世話が方喰寮長の仕事である事
・見回りの時間は夜十一時半からである事



ルーガルーの検分について。(沙沙貴姉妹の部屋にて)

譲葉の行った検証が、不十分と思われる箇所を挙げる。
(実際には、林檎は聖堂に向かえなかったのではあるが)

ぬかるみの中、挫いた足を庇いながら帰途に付いたと推理したのだから、
泥が制服や靴下にも付着していると考えられる。
(ただし、直ぐに洗濯したと考えればおよそ問題ではない)

同様にして、泥の痕跡や臭いが林檎に残っていると考えられる。
これは風呂に入ったのだとすれば良いが、捻挫で炎症を起こしているから、それは考えられない。
(泥はタオル等で拭き取って、ある程度時間が経って薄れたと考えれば可)

つまり、上述したような点を推理しなかったが為に、臨場感が薄れたと言える。



続けよう。

主人公が読み手に対してミスリードをして、それっきりというのは問題だ。
確定情報として擦り込まれ、推論を行う為の前提として定着し切っている。

逃げようとした林檎の足跡と一緒に付いてしまった
“己の足跡の形跡を消した”のだ。

譲葉 「用意周到な相手さ。まさか、足跡を消すことで
    幽霊が相手だ、とでも考えたのかね」

おかしな点はないか、時系列から、林檎の靴に付いた泥。
聖堂前で消されていた靴跡などをネリーへと聞かせた。


下は、林檎の無事を確認した後。 (捻挫はしているが)

私はふらふらと、林檎のよすがを求めるように下駄箱へと足を向けた。
そして、林檎の可愛らしい小さな靴は、左右ともに泥がべったりと付いていた。

ぬかるみの中、足を引きずり戻ってきたことを連想させるように、
靴底は泥が付着し、表面にも痛々しく泥がはねている。

この時に譲葉は冷静さを失っていた事から、見落としたのだろうけれど、
泥の付着の仕方に違和感を覚えた事について言及されなかった。
この違和感について譲葉が語るのは、推理パートを終えた後であった。

故に、
プレイヤーと情報を共有する事が出来ず、
蘇芳とえりかを前に行う推理において、解答する事が不可能となったのである。


時系列

 一, ルーガルー事件 (聖堂での逢引き)

 二, 沙沙貴姉妹の部屋にて
 三,  下駄箱の確認
 四, 現場検証一 (聖堂)
 五, 現場検証二 (聖堂、ネリーと共に)
 六, ネリーと食事
 七, ウェンディゴの再検分前 (道中、ネリーと共に)
 八,  イズニクでの会合(一回目)にて罪を被るネリー
 九, ネリーの日記
 十,
 推理パート (校舎前)
 十一,  
イズニクでの会合 (二回目)
 十二,  推理パート (えりかと蘇芳を前に)
 十三,  答え合わせ
(えりかと蘇芳を前に)


整理しておこう。

時系列三から、時系列十二の推理パートを迎えるまでの間に、
林檎の靴に付着した泥について違和感を覚えた事、
そしてまた靴(泥)のどこに違和感を覚えたかが言及されなかった為、
解答が不可能となったのであった。(後者を読み手に示唆するかは、正答率の目標次第)

そして、それについて言及されるのは、プレイヤーが解けない問題に回答し終えた後。
つまり、時系列
十二における推理パートの後(時系列十三)であった。

時系列九から時系列十にかけ、姿見が水槽であった事は示唆されない。
また、水槽の形状も縦長に視えなくもないが、反射面だけを見れば若干横長に視える上、
上半身の一部しか映らないような大きさである。(よほど距離を取れば別だが、姿見とするには無理がある)

譲葉 「上半身を映す程度の鏡じゃ姿見とはいわない」


二,  沙沙貴姉妹の部屋にて

逃げようとした林檎の足跡と一緒に付いてしまった
“己の足跡の形跡を消した”のだ。

以下、五・六と併せて、読み手に対して良くないミスリードを繰り返した。

三,  下駄箱の確認

私はふらふらと、林檎のよすがを求めるように下駄箱へと足を向けた。
そして、林檎の可愛らしい小さな靴は、左右ともに泥がべったりと付いていた。

ぬかるみの中、足を引きずり戻ってきたことを連想させるように、
靴底は泥が付着し、表面にも痛々しく泥がはねている。

後述の十三において初めて、譲葉が違和感を覚えていたという事実を読み手は知る。

五, 現場検証二 (聖堂、ネリーと共に)


怪我人が出ている、と繋げる。
そして、その犯人は現場に足跡を残していなかったとも。

ネリネ 「足跡が……?」

譲葉 「用意周到な相手さ。まさか、足跡を消すことで
    幽霊が相手だと、とでも考えたのかね」

シニカルな笑みを口の端に作るも、

ネリネ 「……そう。譲葉の足跡だけが」

眉間に皺を寄せ、熟考する癖である
耳に触れているのを見、嬉しさを感じた。

これによって、ネリーが犯人の目星を付けていたという事が伺われる。
以下、六・七も同様である。この点は優れたものだと言える。

六, ネリーと食事

譲葉 「すまないね。鐘楼のルーガルー事件のあらまし
    を聞かせてしまって。神聖な食事中に無粋だった」

聖堂で待ち合せている林檎へと会いに行くまでの道程。

何十分も待ちぼうけをし、林檎の部屋へと向かった私。
そこで彼女が聖堂前で襲われたことを知った。

逃げる際に酷く足を挫いたことも。

おかしな点はないか、時系列から、林檎の靴に付いた泥。
聖堂前で消されていた靴跡などをネリーへと聞かせた。

――考えをまとめる際、人へ話した方が把握しやすい為、
ついやってしまう私の癖だ。

まぁ、相手がネリーだからこそ話せる内容だが。

ネリネ 「足跡……」

と、そう呟き目を細め耳に触れる。 深く熟考する時の癖だ。

譲葉 「ルーガルーの正体は分かったかい?」

問いかけに今まで眠っていたかのような微睡んだ目で
私を見遣ると、目を瞬かせ意識をしゃっきりさせ、

ネリネ 「ごめんなさい。少し気になることがあって……」

と言った。


七, ウェンディゴの再検分前における道中

ネリネ 「沙沙貴林檎さんの怪我、酷いの?」

譲葉 「……そうだな。ただの捻挫というよりは酷く痛めている。
    しばらくは教室でなく自室で自習するそうだよ」

ネリネ 「そう……」

右足を痛めたのよね? と続ける。

譲葉 「足首の捻挫だな。 僕の弟が以前サッカーの試合で
    同じ箇所を痛めただろう。具合でいえば同程度かな」

ネリネ 「そう……」

ネリーは目を細め耳に触れていた。熟考する時の癖。
歩いている際は流石にやめてほしい悪癖となる。

譲葉 「つまずいて怪我をするぞ」

そうね、と同意するも親友は熟考するのを止めなかったのだ……。

十三, 答え合わせ (えりかと蘇芳を前に)

譲葉 「足跡を消す必要がないと解かった後、幾つかの齟齬を
    拾うことが出来た。 林檎はそもそも聖堂に行っていなかったんだ」

蘇芳 「聞かせて頂いた靴箱にあった林檎さんの靴からの着想ですね」

葉 「御名答。 事件当夜、僕は林檎の靴を視た。 左右どちらも
    べったりと泥が付いていたよ、だがおかしくはないか?」

既に理解している二人へと問い、“右足”を怪我していた、と続ける。

葉 「足を引きずって帰った。 泥が付く部分は必然的に偏る」

葉 「なのに、左右どちらの靴底にも均一に泥がべったりと付いていた」

えりか 「……アリバイ工作が裏目に出たって訳か」

葉 「恐らく事件の流れはこうだ。 林檎が足を挫いたこれは本当だ。
    擁護教諭が診察をして診断を下している」



葉 「騒ぎになっていないところをみると自室で――」

林檎のベッドは一番上だったから、梯子の途中で足を踏み外して
挫いてしまったのではないかと続ける。

えりか 「そこで
沙沙貴姉が一計を案じたって訳だ

葉 「ああ、距離を取られている妹を案じて、怪我を逆手に取り
    周囲の同情を買うために自作自演をすることにしたのさ」

蘇芳 「待ち合わせよりも早く聖堂に行ったことにして、
    そこでルーガルーに襲われたことにした……」

えりか 「足跡がなかったのは当たり前だ。
     そもそも行ってすらないんだからな」

葉 「待ち合わせの時間に来ない事に僕が心配して部屋に来ることも
     織り込み済みだったのだろう。そこで――」

襲われたと言って負傷した右足を見せてきた。

えりか 「後は、八代先輩が話してくれた流れって訳ですか。
     妹の為に事件の絵図を描いた」


事実を整理しよう。

譲葉と聖堂で待ち合わせた林檎は、向かう前に不注意から捻挫してしまう。
(おそらくは、ベッドの梯子から足を踏み外し)
皆に距離を置かれた林檎を想い、苺は狂言を思い付く。
林檎の靴に泥を付け、証拠を捏造し、林檎と共に口裏を合わせる。

(譲葉にこれを伝えなかったのは、作品の都合上という点を除けば、
<敵を欺くにはまず味方から>であるのは定石であるし、
譲葉に比べて、林檎の方が過酷な立場にある事から納得出来るだろう)

ネリネは、自分から振ってしまったとはいえ、
譲葉と林檎が付き合い出した事に心を揺さぶられていた。
この二人の関係を認める事をネリネは公言しなかった。
林檎が横恋慕し、譲葉がネリネを振ったように見えた為、
譲葉と林檎に対し、周囲からの風当たりが強くなったのであった。
そして、それはニカイアの会の会員の態度に後押しされたものでもあった。
何故なら、譲葉とネリネの関係を、会員達は入学当初より知っており、
この二人が付き合っている、あるいはいずれ付き合うものだと思っていたからである。

幼少時からの関係や、信仰を半ば強制してしまった事も併せ、
罪の意識に苛まれていたネリネは、自身をルーガルー事件の犯人という事にし
名乗りを上げ、沙沙貴姉妹を庇う事にしたのであった。

(双子が狂言を行った事で、空気は和らいでいたが、
ニカイアの会で犯人探しを行う事は決まっていた。
譲葉が双子を庇おうとしているのをネリネは知らない上、
名乗った後において譲葉に対し“救われたような笑顔”を見せた事から、
自己犠牲というよりは、懺悔の意味合いを感じ取れる)

聖堂の検証と、ウェンディゴの再検分前における道中での会話から、
犯行は狂言であったとの目星をネリネは付けた。その根拠は、“足跡”であった。
学園指定の
靴による足跡では、証拠としては不十分であり、消す必要は無かった。
(これが語られるのは、最後の推理パートを終えた後である)

足跡を消す必要が無い事から、可能的な事象の一つとして
<そもそも、その場にいなかった>という事をネリネは考えた。
また、<両方の靴に均一に泥が付着していた>という事実は、
事件は狂言であるとの疑念をネリネに抱かせるには十分だった。
そして、以前春に苺が失踪の狂言を行った事もまた、その思いを強めさせた。
(劇中ではネリネの行った推理は描かれない。また、
以前の狂言について、ネリネが知っていたかどうかは、確認の余地がある)

(“
左右どちらの靴底にも<均一に>泥がべったりと付いていた”という情報は、
読み手には時系列十三にて明らかとなる。譲葉がネリネにこれを詳細に伝えていたかは、明らかではない)

ネリネの意も汲んだ譲葉は、当初の予定通りウェンディゴ事件を利用し、
犯行は餌付けされた動物の仕業という事で決着を付けようとする。
しかしダリアが食い下がった為、譲葉は次の手札を切る。
方喰寮長の名を出す事としたのであった。(寮長の同意は既に得ている)
餌付けの事実は知られる事となるが、善意から生じたものであり、
罪とまでは言えず、寮長の株を落とす事は無いだろうとの判断であった。
また、方喰寮長はウェンディゴ事件の発端となった事を心苦しく思っており、
名前を出す事を快く了承したのであった。


(更に遡ると、野生のタヌキを寮生が保護した事が挙げられる。
寮の規則では動物を飼う事は禁止されており、それを森へと帰す事になったが、
方喰寮長は動物の怪我が治るまではと、餌と薬を与え続ける事にした)

(ニカイアの会にて、ルーガルー事件の犯人探しを行う事が決定されたのは、
譲葉の語った事件の子細に対し、珍しくダリアが食い下がった事からも明らかなように、
“一歩間違えれば骨が折れているほど”のものであったことと、“動物が人型に見えた”事が理由と思われる。
シェイプシフター事件では捻挫の程度がルーガルーほど重いものでなく、ウェンディゴ事件で被害者はいない)

 (念の為に確認しておくと、譲葉がニカイアの会で語った事は事実とは異なる。以下の三行は、ほぼ譲葉の作り話。
林檎は方喰寮長の餌付けを知っていて、怪我の理由を養護教諭に話すと
それを知られてしまう為、とっさに怪異の名を挙げた。またそれは自身の立場を回復する為でもあった。
林檎の嘘がバレると、林檎が再び白い目で見られてしまうと考え、ネリーは二人を庇う事にした)


ミステリィは春篇から順当に良くなってきている上、
質問の数が減った事で、総当たりはし易くなっている。
しかし努力が水泡に帰するのであれば、熱心な者ほど損をしてしまうだろう。



◇結語:


作画と音楽の質に対し、シナリオが追い付いた。
ミステリィの隙を無くせば、他の追随を許す事は無いでしょう。

このシリーズに触れる事が出来て良かった。冬編にも望みが持てます。



☆後記:


以下は、特に主観に満ちた記述になるので注意。

小御門ネリネ・八代譲葉の抱えていたものが徐々に明かされ、
自身を振り返り相手と向き合い、衝突し、理解し合って、二人の関係はあるべき形へと再構築された。

譲葉が見せた、
同性愛を否定する神への憤り。
食事の前に祈りを捧げる事と、本編ラストでネリネへの愛を神に誓う事。

一見すると相反しているように見えるが、前者は人工の神と呼ぶべき存在であり、
後者は自然的な神と呼ぶべき存在であって、譲葉の中でも矛盾はしていないのだろう。

もう二人に居場所は必要無く、互いに相手が自らの居場所なのだということ。
仮初めの信仰を捨て、自由になり、二人手を取り合い道なき道を往く。
だが恐れるものは何も無い。繋いだ手が離れることはもう無いのだから。

譲葉は父親から聞かされていた、どんな場所にあっても幸福かどうかは自分次第、
という事の意味を真に理解したのだと思う。


さて、本作で最高のシーンは、やはりラストです。エンディング曲を迎えた後、正に
九回裏、ツーアウト満塁三点差、逆転サヨナラ満塁ホームランでした。

譲葉の気持ちと重なり、視界がぼやけて熱くなりテキストが読めなかったです。

彼女が冬の清冽さを好む事も暗喩になっていたと言えます。
向かう先に足跡の無い雪道は、険しい未来と真っ白なキャンパスを思わせました。


譲葉の一人ヘアショーは最高に可愛らしかった。
それと、ネリーにも“ユズユズ”って呼んでもらって欲しいところです。

頬を染めた女の子な譲葉と、それを慈しみ愛でるネリー。
そんなやりとりが多くなっていくと思うと、計らずも頬が緩んでしまいます。


P1090106.jpgP1090133.jpg  






  1. 2016/06/18(土) 21:29:13|
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